スペイン育成現場で行う「フィジカルテスト」
目次[非表示]
- 1.はじめに
- 2.なぜフィジカルテストを行う?
- 3.サッカーにおけるフィジカルアクション
- 4.今回行うテスト
- 5.最後に
- 6.関連記事
はじめに
プレシーズンの初日、バルセロナのほとんどのチームはフィジカルテストを行います。
今回の記事では、僕がバルセロナでフィジカルコーチとして働いているチームが行うフィジカルテストについて紹介します。
僕自身はじめてフィジカルテストを行うので、今回行うこれらのテストがどのくらい役に立つのか正直まだわかりませんが、実際に行い、データをとることが次に繋がると思っています。
フィジカルテストはプレシーズン1日目を含めて、今シーズンは3回行います(12月と3月)。その為、フィジカルテストの一番の目的は選手のフィジカル能力がどのように変化するのかを、確認する事だと考えています。
なので、シーズンの終わりにフィジカルテストの結果の変動なども紹介が出来たらと思っています。
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なぜフィジカルテストを行う?
フィジカルテストを行う理由、目的は大きく3つあると考えています。
1つ目は、先ほど少し説明したフィジカル能力の変化の可視化です。
フィジカルテストはプレーシーズン1日目(8月)、冬のバケーション前の最終トレーニング日(12月)とセマナサンタ休暇中(4月)の3回行う予定です。
8月のフィジカルテストをもとに、選手一人一人に12月まで取り組む、フィジカル能力の向上目標を設定します。そしてこの目標に合わせたフィジカルトレーニングを選手一人一人に設定していきます。
12月のテストでフィジカル能力の進歩を確認、テスト結果をもとに新しく目標とフィジカルメニューを設定して、4月のテストまで取り組みます。
4月から先はシーズンも終盤になり、フィジカル能力の向上よりも、試合へのコンディション調整が重要になってきます。
GPSを購入できれば、このテストと試合のフィジカルアクションの関係性を研究していこうと考えています。
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2つ目の目的は、怪我の可能性を探る事です。
後に、テストについて紹介していきますが、筋肉のパワーバランスを図るテストや、関節の可動域やムービングのテストを行うことで、どの部分に怪我の可能性があるのかを探します。
テストの結果次第で、選手一人一人に怪我予防のトレーニングを設定していきます。
怪我予防も上と同様に、3回のテストで進歩を確認します。
バルセロナでは1年で選手が移籍してしまう可能性があるので難しいですが、前のシーズンの終わりに同じフィジカルテストをする事で、休みの間に選手のフィジカル能力がどのくらい低下しているのか確認する事が出来ます。このフィジカル能力が元の水準まで戻る期間も、怪我の可能性が高い期間と言えるので、もし出来るのであれば休み前にフィジカルテストを行う事をお勧めします。
他にもシーズンの途中で、選手の疲労具合を確認する為に、フィジカルテストを抜き打ちで行う事もできます。
例えば、10m走のタイムを知っておけば、違う日にタイムが落ちている場合、その選手は疲労が溜まっている可能性があります。
3つ目の理由は、テストの結果をトレーニングの負荷の基準にする事です。
特に1RM(最大筋力を測る)のテストをする事で、選手の最大筋力を測ります。その結果日々のトレーニングで一人一人にトレーニングの目標に適応した負荷(kg)の設定が出来る様になります。
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サッカーにおけるフィジカルアクション
『生体エネルギー学からのサッカープレーヤー分析』
サッカーにおけるフィジカルアクションの特徴として、以下のものがあげられます。
• ゲーム中
総走行距離:10〜12Km*ポジションによる
停止時間:約45分
速度:
最小速度0〜15Km/h⇨ 31〜35分(歩く時は約4Km)
中間速度15〜25Km/h ⇨ 3〜5分
最大速度25Km/h以上 ⇨ 22秒〜3分
- 最大速度でのアクションの50%が12m以下
- 20%が12〜20m
- 15%が20〜30m
- 残りの15%だけが30mを超える
- スタートダッシュ:1試合中に止まった状態もしくはジョギングからスタートダッシュを行う回数は約130回
- リズム変化と方向転換は約1000回
- 血液中の乳酸濃度は3–7mmol/L, 個人差を考慮すれば2−12mmol/Lまで考えられる
- 1試合の相対的プレー強度は最大心拍数の70−80%
- 1試合の血圧は160−170ppm(特化持久力・パワー有酸素)
- 一回のプレーの一般的持続時間は、0〜30秒(約73%) 他の33%が15秒以下である
- 回復時間は30秒以下。(約93%が30秒以下である。そのうちの32%が15秒以下)
- パワーの4つのタイプ(蹴る、ぶつかる、跳ぶ、走る)のうち、ぶつかるアクションが1試合中に約80回行われる
つまり、サッカーの試合は次の性質を持つ
- 様々な強度での断続的なアクション
- パワーの継続性が無い
- 瞬発的アクションの必要性
今回行うテスト
1. 1RM (ベンチプレス、スクワット、ヒップスラスト、デッドリフト)
このテストでは選手の最大筋力を測ります。その結果にとって、シーズン中のフィジカルトレーニングを行う時の選手の負荷(kg)が決まってきます。
このテストは日本でも行われていると思います。
2. 筋肉のパワーバランス
理学療法士の方が、主観で筋肉のパワーバランスを確認します。(1から5の点数)
主動筋と拮抗筋のバランスが取れていないと、弱い筋肉が怪我をしてしまう可能性が高くなります。(大腿四頭筋とハムストリングスのアンバランスによる肉離れなど)
3. FMS (Functional movement screen)
7つの動きのテストを行い、0から3点の点数をつけていきます。
3点 正しい動作パターンを行うことができる
2点 誤ったフォームや動作中の代償動作を伴うアライメント不良がある
1点 動作パターンが不十分で実施困難
0点 テスト中の疼痛により動作実施困難
7つの動き:
・Deep Squat(DS)
目的 股関節、膝関節、足関節における両側の対称的、機能的可動性や安定性をテスト
・Rotary Stability(RS)
目的 上下肢の複合的な動作中における多平面上での骨盤・コア・肩甲体の安定性をテスト
・In-Line Lunge(ILL)
目的 股関節、膝関節、足関節、足部の可動性と安定性を同時に 広背筋や大腿直筋のような多関節筋の柔軟性をテスト
・Hurdle Step(HS)
目的 身体の運び方、またぎ動作のメカニクスを試し、片脚立位 での安定性のコントロール能力をテスト
・Trunk Stability Push Up(TSPU)
目的 上半身を対称的に動かすCKCの動作中に矢状面上で脊柱を安定させる能力をテスト
・Shoulder Mobility Reaching(SMR)
目的 肩関節の可動域テスト 上肢・肩関節の対側動作における肩甲胸郭部、胸椎、胸郭の自然な相補的リズムのテスト
・Active Straight Leg Raise(ASLR)
目的 骨盤とコアの安定性を保持しながら下肢を分離して動かす能力をテスト
理学療法士の方と確認する事で、身体のどの部分の可動域、安定性、そしてコントロール能力に問題があるのか探します。
4. 爆発的パワーのテスト
・T テスト (アジリティ)
・10、20、30m走:初速、加速と最大スピード。
・トリプルジャンプ (片足):片足のパワー。
5. IFT 30-15 (持久力)
このテストでは、最大有酸素性スピードを測定します。
選手一人一人の最大有酸素性スピードを知る事で、日々のインターバルトレーニングの距離と秒数を設定する事が出来ます。
YoYoテストに近いテストになっていますが、近年ヨーロッパでは、この最大有酸素性スピードの値がより正確であるという事で、こちらのテストをしているチームが増えていると感じています。
最後に
フィジカルテストをする事で、選手達の成長を可視化する事も出来ますし、怪我予防をする事も出来ます。
さらに日々のトレーニングを選手一人一人の能力に合わせる事で、適切な負荷をかける事ができ、選手のトレーニングの質を向上し、負荷のかけすぎによる怪我も防ぐ事が出来ると考えています。
しかし、フィジカルテストの結果は全てサッカーに直結するわけではありません。
サッカーは複雑なスポーツなので、フィジカルテストの結果が良くても、試合で活躍できない選手もいれば、反対にフィジカルテストの結果が悪くても活躍できる選手もいます。
バルセロナでは、スピードの概念の話をする時に必ずと言っても良いほど、次のパコ・セイルーロ氏の発言が紹介されます。
「FCバルセロナで一番スピードがある選手はグラウディオラだ、と言ったら信じますか?もちろん5mから20mのダッシュやストップという動作だけなら、フィーゴやセルジの方が速い。しかし計算や判断という要素を含んだスピードトレーニングをするとグアルディオラが一番速い。」
なので、判断という要素のない僕たちが行うアジリティーテストでは、スピードのある選手なのか?それともスピードのない選手なのか?は判断する事が出来ないと言えます。
スピードのある選手なのか、そうでないのかの知る為にこのテストを行うのは間違いになります。しかし僕たちは、サッカーという方向転換が多いスポーツに適応出来る、下半身のパワーがあるのか?方向転換時に怪我のリスクがあるようなステップを踏んでいないか?を確認する為に行います。
フィジカルテストをする際は、どのテストをしようかではなく、何の為にするのかを考えて行いましょう。