【バルセロナで戦うサッカー監督が考える】シーズンを戦う上で重要な「プレシーズン」とは?
目次[非表示]
- 1.はじめに
- 2.スペインのシーズンの流れ(育成年代)
- 3.オフシーズンとは
- 3.1.オフシーズン
- 3.2.オフシーズンの重要性
- 4.プレシーズンとは
- 4.1.プレシーズンの流れ
- 4.2.プレシーズンの注意点
- 5.日本とスペインのシーズンの違い
- 6.最後に
- 7.関連記事
はじめに
「プレシーズンは、1シーズン戦い抜く為のフィジカル要素を伸ばす期間だ!全てのプレーモデルを選手に浸透させるぞ!」
プレシーズンというとこのようなイメージが頭に浮かぶと思います。
今回紹介するのは、スペインで実際に行われている、少し異なるプレシーズンの考え方です。
スペインでは戦術面だけでなく、フィジカル面やシーズンの流れについても常に研究、発展しており、今回僕が紹介する事も、もしかすると何年後か先には古い考え方になるかもしれません。
常に新しい考えが生まれるスペインで、僕が学んだ最新のプレシーズンの考え方について説明していきます。
【合わせて読みたい】リーガ&CL優勝 R・マドリード成功の影の立役者、アントニオ・ピントゥスとは?
スペインのシーズンの流れ(育成年代)
6月 ポストシーズン
基本的には6月にシーズン最終節が行われ、そこから約2、3週間は来シーズンの入団テストを兼ねた、新チームでのトレーニングや紅白戦が始まります。
7月1週目から8月の2、3週目まで オフシーズン
夏休みが始まり、基本的にはチームとしての活動は無くなります。この間にサッカーキャンプやカップ戦(友達同士でチームを結成したり、サッカースクール選抜として)に参加したりするので、夏休みに全くサッカーをしない子供は少ないと感じています。
8月の2、3、4週目から9月の3週目まで プレシーズン
ここが育成年代のプレシーズンにあたる期間となります。
9月の3、4週目から6月まで レギュラーシーズン
レギュラーシーズンが開幕し、公式リーグ戦を闘います。
12月4週目から1月1週目 クリスマス休暇
クリスマスから年末年始にかけ約1〜2週間ほどの冬休み。(オフシーズンではなく、移行期間と呼びます。)
4月の2、3週目 イースター休暇
セマナサンタと呼ばれる約1週間の大型連休。(オフシーズンではなく、移行期間と呼びます。)
【合わせて読みたい】トッププレーヤーを輩出し続ける!!スペインサッカー育成年代リーグ戦の仕組み
オフシーズンとは
オフシーズン
スペインでは、7月・8月が夏休みになります。夏休みの間、選手たちはクラブでの活動が無くなり、オフシーズンを過ごします。
オフシーズンの重要性
・プレッシャーからの解放
スペインでは8歳・9歳年代(ベンハミン)からリーグ戦にカテゴリーがあり、選手たちは昇格、降格をかけて一年を通して戦います。
僕自身、ベンハミン年代の2部のチームを率いた経験(降格圏内のチームを途中から)がありますが、クラブはカテゴリーをとても大切にしており、コーディネーターからのプレッシャーをひしひしと感じながら毎日のトレーニング、試合に取り組んでいました。
それは指導者だけでなく、選手達も同じです。降格してはいけない、活躍しないと来シーズン高いレベルのチームに入れない。そのようなプレッシャーを常に感じています。
そのため、オフシーズンの間にプレッシャーから解放され、シーズン中に出来ない事をする事で、また次の1シーズンを過ごすために必要なエネルギーを充電していると感じています。
・身体のバランスを戻す
スペインでは、このオフシーズンにサッカーから一度離れることが推奨されています。
その理由は、先ほどのメンタル面の回復だけでなく、身体のバランス面も関係しています。
サッカーを1シーズン通して行うと、選手の身体はサッカーに特化した身体になります。サッカーでよく使う筋肉は発達し、そうでない筋肉は発達しません。その結果身体のバランスが崩れてしまいます。
例えば、右利きの選手は、右足の筋肉の方が左足よりも発達していると思います。
また下半身の筋肉の方が、上半身よりも発達していると思います。
なので、サッカーではないスポーツしたり、休む事で、今まで使ってこなかった筋肉を刺激したり、身体のバランスを戻す事が、怪我の予防に繋がり、パフォーマンスの向上にも繋がると思っています。
プレシーズンとは
プレシーズンは基本的にシーズンが始まる約4〜6週間前に始まります。
プレシーズンの目的
少し前までは、プレシーズンはシーズンを戦い抜くフィジカルをつけるための期間だ!シーズンを通して戦い抜くための戦術の準備期間だ!と言われていましたが、僕が今考えるプレシーズンの目的は以下:
- オフシーズンに落ちてしまったフィジカルコンディションを取り戻す
- サッカーに適応できる身体を取り戻す
- リーグ戦第1節に勝利するための準備期間
- 選手達のことを知る期間
1. オフシーズンに落ちてしまったフィジカルコンディションを取り戻す
選手は4週間以上休むと、パワーや心肺機能が低下すると言われています。そのため、この公式戦のない期間に、失ってしまったパワーや心肺機能を戻す事は重要です。
2. サッカーに適応できる身体を取り戻す
もし選手がオフシーズンに、サッカー以外のスポーツやジムに通う事で、パワーや心肺機能を維持していてもサッカーに適応できる身体とは言えません。
サッカー特有のアクション(ボールを蹴る動作や方向転換)による、筋肉、関節や腱への刺激に対応できるように身体を戻していく必要があります。
3. リーグ戦第1節に勝利するための準備期間
Coppalle et al(2019)によると、プレシーズンのトレーニングによる負荷は、リーグ戦開始からの5試合の選手のパフォーマンスにポジティブな影響を与えないと主張しています。結果、プレシーズンのトレーニングは、その後のシーズンのパフォーマンスに対しての影響力が少ないと考えられます。
そのため、プレシーズンはリーグ戦第1節のための長い準備期間として考えるようにしています。
もちろん、この期間に様々な戦い方を試しておく事で、チームがより多くの状況に対応できるようになり、第1節に勝利をする可能性が高くなるので、結果的により多くのテクニック・戦術のトレーニングをする事になります。
4. 選手達のことを知る期間
選手達のことを知る事はとても重要です。
選手達は常に変化しています。この期間を利用して、より早く選手達の特徴を知ることで、リーグ戦第1節に向けて良い準備をする事が出来ます。
プレシーズンの流れ
Seirul·lo Vargas, F. (1998)
ポイント:
・プレシーズンの50%(前半)は、サーキット、ロンド、ポゼッション系のトレーニングが多い。(特化運動能力要素)
・半分が過ぎた頃から、テクニック・戦術面のトレーニングを増やしていく(技術・戦術要素)
・強度は少しずつ上げていく。
プレシーズンの注意点
ここでは、プレシーズンを過ごす上での注意点を紹介します。
・急激な戦術的負荷を与えない。
選手達は久しぶりに、サッカーという難易度の高いスポーツをします。いきなり多くの事を求めてしまうと、ただでさえフィジカル的にキツく感じているものが、戦術的な負荷によりさらにキツく感じてしまい、トレーニング自体が上手くいかなくなってしまう可能性があります。
・爆発的パワー系のアクションを急に行わない。
サッカー特有の爆発的アクション(キック、ジャンプ、ダッシュ、方向転換、フィジカルコンタクトなど)は怪我をする可能性が高いので、なるべく行わないようにトレーニングを設定する。
・ディナミカ・エクステンシバ(大きいスペース)のトレーニングから始め、徐々にディナミカ インテンシバ(小さいスペース)のトレーニングにしていく。
大きいスペースでのトレーニングから始めることで、デェエルや加速、減速、方向転換などを減らし、実際の試合に近い大きさ(時間とスペース)でのプレーに慣れさせる。身体の慣れに合わせて、徐々にスペースを小さくする事で、フィジカルコンタクトや強度を上げていき、試合への準備をしていく。
・高負荷のトレーニングを行い過ぎない。
先ほども話したように、よくプレシーズンにフィジカルメニューを多く取り入れて、選手を長く疲労状態にしておく事で、シーズン中に疲れない身体を手に入れようという考え方があると思います。
ただここで理解しておくべきなのは、疲労状態の選手は疲労状態の自分ができる判断をします。つまり疲労は選手の判断に影響を与えます。例えば、ドリブルで前進できる状況だが、疲れているのでパスを選択する、守備ラインの裏にスペースがあり、ダッシュをしたらチャンスだが、足元でボールを貰おうとするなど・・・
「疲労状態でのプレー」は、「良いプレー」の準備にはなりません。
*もちろん試合の終盤などに疲労が溜まっている状況でのプレーをトレーニングする為に行っているのであれば、間違いではありません。
さらに、疲労状態でトレーニングを続けていると、怪我のリスクも高くなります。
日本とスペインのシーズンの違い
今回紹介したプレシーズンですが、日本では全く同じものは存在しないかも知れません。
日本では1ヶ月オフなどはあまり存在しないと思いますが、1、2週間ほどの休みの移行期間はあると思います。
今回紹介したプレシーズンの注意点などは、移行期間後のトレーニングでも考慮すべきだと考えています。
僕がスペインに移住して10年、僕がいた頃とは日本サッカーの状況はかなり変わっていると思いますが、日本ではスペインのようなリーグ戦よりも、年に数回ある全国大会につながるトーナメント戦が重要視されていると感じています。
なので、もしかすると日本では、そのトーナメント以外の時間は全てプレシーズン(準備期間)と言えるのかも知れません。
そうなるとまた違うプレシーズンの考え方が生まれると思います。
最後に
最近FCバルセロナ Innovation hubというマスターコースの授業で、たくさんの講師から話を聞く機会がありました。
世界で結果を残している彼らが講習の一番始めに言うのは、
「サッカーに1つの正解などない、今回の講習であなた達に何かを教えに来たわけでもない、考えを変えに来たわけでもない、説得したいとも思わない。自分が今何をしているのか紹介しに来ただけだ。この話を聞いて、あなた達自身のサッカーの考え方を構築してほしい。」
今回のこの記事も、僕がプレシーズンをどのように考えていて、どのように行おうと思っているのかを紹介しました。
なので、この記事を読んだ皆さんが自分自身のオフやオフ明けのトレーニングについて考えて頂けたら幸いです。