【3バックの使い手パブロ・マチン】セビージャFCのプレーモデル解説
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はじめに
昨シーズン1部昇格を果たしたジローナを、1年目から10位に導いたパブロ・マチン。今年はセビージャFCと契約しました。8月にはヨーロッパリーグ(EL)プレーオフ突破も果たし、幸先の良いスタートをみせます。サポーターは新シーズンへの希望で満ちていました。
しかし肝心のリーグ戦では1勝1分2敗と、スタートダッシュに失敗。ジローナで成功を収めた3‐6‐1フォーメーション(守備時は5‐4‐1)をセビージャでも使用していたが、全くフィットしない状況になりました。マチンはメディアや自身のサポーターからも疑問視されはじめ・・・。
―何かを変えなければ―
9月23日開催の第5節レバンテ戦でフォーメーションを3‐5‐2(守備時は5‐3‐2)に変更します。
結果は2‐6で大勝利。以降セビージャFCは8勝4分1敗。勝率は33.3%から88.9%へ大幅アップしました。リーガ第17節を終えて首位FCバルセロナと勝ち点差6差、A・マドリードと勝ち点2差、3位まで浮上します。
ジローナで出来たことが、セビージャでは機能しない。
崖っぷちでパブロ・マチンがひねり出した答えとは?
本記事ではフォーメーション変更の意図と成功の秘密を解説します。
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ジローナ|3‐6‐1フォーメーション成功の理由
今流行りの3バック(守備時は5バック)は、パブロ・マチン監督が得意とするフォーメーションです。
ジローナ時代は、3バック・両翼ウイングバック・ダブルボランチ+トップ下2人・ワントップ(FWストゥアニ)のフォーメーションで成功を収めました。
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ジローナでは機能していた理由
それはインサイドハーフを形成する2人のうち1人に運動量が豊富なポルトゥがいたことが、考えられます。
3-6-1はFWがワントップのフォーメーションです。中盤に6人の選手がいるため、ゾーン2でのパスワークや守備力を引き上げる点が強みとなります。
逆にビルドアップ時(サリーダ・デ・バロン)に数的不利を作られるので、前線からのプレッシャーがかけづらいこと。攻撃では「2列目からの飛び出し」がない場合、背後のスペースをうまく使えないことが欠点と言えます。
2列目の位置から攻撃時は相手センターバックへプレスし、守備時は積極的な飛び出しを見せていたポルトゥ。「その運動量で2トップの一角の役割も兼任していた」と言っても過言ではありません。彼の存在がジローナ3-6-1フォーメーションの鍵でした。
マチン監督は教え子のポルトゥをこの夏セビージャFCに引き抜こうと、移籍市場終了日まで粘りました。しかし移籍は実現せず終わります。
セビージャ|中盤のオーバーブッキング
シーズン序盤。マチン監督はジローナでの3-6-1フォーメーションをセビージャでも採用します。
ダブルボランチに加え、インサイドハーフが2人。ミッドフィルダー4人を中央で起用する事によって、中盤での構成力を上げることが狙いです。
だがそれが裏目に・・・。セビージャFCは中盤に選手が密集し過ぎて、速いパスワークが展開できず苦戦していました。
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なぜか?
セビージャFCのインサイドハーフはパブロ・サラビアとフランコ・バスケス。いずれも卓越したテクニックを誇るMFですが、足元へボール引き出すプレーを得意とする2人です。相手DFライン背後のスペースへ飛び出す選手がおらず、中盤でオーバーブッキングが発生。中盤の4人がスペースを消し合う現象がおきていました。
一方ジローナでは縦横無尽に動き回るポルトゥが、中盤にスペースを与えていました。事実、試合の状況次第で、彼はストゥアニのサポート役としてツートップを張ることも・・・。ポルトゥのおかげで、ジローナの中盤に選手が密集し過ぎる事はありませんでした。
さてクオリティの高い中盤のプレーヤーを揃えるセビージャ。予算が潤沢なクラブの贅沢な悩みです。しかし結果が出ない「中盤のオーバーブッキング」
マチン監督はどのように解決策を導き出したのでしょうか?
3‐6‐1から3‐5‐2:(攻撃時)両サイドで数的優位
中盤のオーバーブッキングを解消するため、中盤のクオリティを下げてでもスペースへアタックする選手を増やそう―。
ワントップからツートップに変え、ダブルボランチも崩し、ボランチをアルゼンチン代表MFバネガのワンボランチに変更します。
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トップ2人とインサイドハーフ2人が1人ずつ(FWと同じく)ウイングバックと共に両サイドをカバーする事になります。
これによって両サイドに計3選手(WB、IH、FW)が揃い、攻守においてサイドで数的優位を作ることが出来ます。WB、IH、FWが斜め1直線に並ぶこのフォーメーション。この位置関係はウイングバックがボールを保持したとき、サイドに流れる選手を必然的に生み出します。(インサイドハーフがFWへのパスコースに重なるため、どちらかがサイドへ流れる)
このフォーメーションチェンジで、攻撃時はチームの奥行きを保つことに成功。さらに中盤のオーバーブッキングも解消されました。
ボランチから始まるサイドチェンジ攻撃
ダブルボランチを失うことで、ビルドアップにおける3バックとの関係性が悪くなる。
それを補うために司令塔のバネガが本領を発揮します。常に3センターバックの間にポジショニングして三角形を作ります。
DFラインからボールを引き出して―
中盤と最前線を繋いでくれるMF(サラビア/フランコ・バスケス)まで届ける。
サイドでの数的優位と位置的優位を活かすためのコンスタントなサイドチェンジ。
自分のパスコースを切られた場合、チームのキープレーヤーであるサラビア、フランコ・バスケスのパスコースを確保。
バネガの戦術理解度・ボール配給能力・チームバランス管理能力が、セビージャのフォーメーションを支えています。
3‐6‐1から3‐5‐2:(守備時)組織守備をブロックからストーミングへ
選手個人の質的優位性で劣っていたジローナは、昨シーズン中盤でブロックを作る戦いが多くなりました。守備時は5バックとなり、ときには5-4-1のシステムチェンジを採用していました、
セビージャでは選手のクオリティで優り、主導権を握る場面が多くなりました。選手は前線からプレッシャーをかけて、一刻も早くボールを取り返したい・・・。しかしFWが1人では前線に人数が足りません、実力で劣るチームに対しても中盤からのブロックを選択せざるを得ない状況です。これにより、チームが余計なストレスを受けていたことは明白でした。
2トップ+2インサイドハーフに変更後。
前線に選手が増えたことで、生き生きと前線からプレスすることが可能になります。ハイプレッシャーで相手陣地でボールを奪取し、ショートカウンターを仕掛ける。このスタイルが今のセビージャの十八番になりつつあります。
まとめ
選手の特徴・クラブのアイデンティティ・リーグ戦における流れ・監督のアイデアなど、様々な外的要因を分析してプレーモデルを順応、または適応させる。これが現代サッカーにおいて最も重要な要素かもしれません。
セビージャFCの試合を見る機会があれば、記事のポイントに注目してみてください。
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