スペインサッカー守備の集団プレー戦術「ライン間のバランス」
はじめに
日本では「個人戦術」「グループ戦術」「チーム戦術」が主に主流となっていますが、スペインではその他に【集団プレー戦術】という概念があります。なぜ集団プレー戦術と呼ぶ必要があるのか?理由は2つあります。1つ目は、スペイン語で「Juego colectivo(フエゴ・コレクティーボ」といい、直訳すると「集団的プレー」となるから。もう一つは、日本語で置き換えることができない概念だからです。集団プレー戦術はチームとしてサッカーをするための原理原則です。「グループ戦術」と「チーム戦術」の間に位置している。と言えばわかりやすいでしょうか。
本記事では、守備時の集団プレー戦術で最も基礎となる【ライン間のバランス】の概念について紹介します。
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集団プレー戦術とは?
集団プレー戦術とは、「13のプレーシチュエーション」を更に深く掘り下げ、サッカーの原理原則の部分を整理したものです。まずは、以下の記事を読むことをオススメします。
チーム戦術を作ろう!サッカーの基本『13のプレーシチュエーション』前編
さて、これから「13のプレーシチュエーション」を理解していると仮定して、話を進めていきます。
上記の図を見ていただければ分かるように、「プレーモデル=チームの在り方」を設定することがチームを作る上での大枠になります。
【関連記事】スペインサッカーから伝わる「プレーモデル」の言葉の真意を読み解く
次に「チーム戦術=ゲームプラン(チームとしての試合での戦い方)」となります。
そして、そのゲームプランを実行するための土台が「技術」「フィジカル」「メンタル」そして、「戦術の原理原則の理解」の部分になります。戦術は2つに分けられ【個人戦術】と【集団プレー戦術】となります。※グループ戦術を組み込むことも可能です。
【個人戦術に関する関連記事】スペインサッカー攻撃の個人戦術【横距離(アンプリトゥ)】
サッカーの原理原則とはなにか?
サッカーにおける原理原則とは、サッカーの状況において「90%以上の人々が同じ答えを導き出すアクション」と仮定します。
例えば、以下の状況を見てください。
この状況では、ボール保持者にプレッシャーがかかっているとき「受け手のサポートの選択肢は足元になる場合が多い」のです。もちろん原理原則から飛び出すことは大切ですが、まずは「ボール保持者にスペースがない場合は、足元のサポートが有効である」という事を知るのが大切です。基本を知らなければ応用問題は解けませんからね。
この概念は「攻撃の個人戦術マークを外す動き(デスマルケ)」に分類されます。
では次の状況です。以下の図を見てください
黄色チームがセンターバックからサイドバックへボールを出した状況。赤チームが守備をしていますが、①方向、もしくは②方向、どちらに守備ブロックをスライドするべきでしょうか?
サッカーを知っている人ならすぐに分かりますよね。正解は①方向へスライドです。もちろん長年サッカーに親しんでいる人には簡単な問題ですが、サッカーを始めた子供たちにとっては難問です。さらに個人戦術と違って、チーム全体の動きとなるので難易度もアップします。
このアクションは「守備の集団プレー戦術、ラインのバランス(チームの横のバランス)」に分類されます。
例題からわかるようにサッカーには、普遍的な原理原則が存在しています。それを整理して言語化し、幼少時からバランスよくトレーニングすることが必要となります。
守備の集団プレー戦術【ライン間のバランス】
ライン間のバランスとは、スペイン語で「equilibrio entre líneas(エキリブリオ・エントレ・リネアス)」で、文字通りラインの間のバランスを保つことを指しています。
まずサッカーには「ライン」という概念があり、それはシステムと関係しています。
例えば、4-4-2・4-2-3-1・4-3-3など全てのサッカーのシステムは、3つもしくは4つのラインで形成されていることがわかります。
【ラインの概念に関する記事】
簡単に突破されない守備!スペインサッカー常識「ディフェンスの壁」とは?
このラインの概念こそがサッカーの肝であり、サッカーの基礎でもあります。ラインが存在しなければ、ポジションは存在しません。自分のポジションでプレーすることが理解できると、ピッチ上にラインが生まれます。
つまり【ライン間のバランスを保つ=ポジションの概念が分かる・ポジションを保つ】ことに繋がります。
子供たちがサッカーを始めた頃、団子サッカーになるのは、「ポジション」という概念が、まだ子供たちにないからです。スペインでは、小学1年生から、技術・個人戦術・フィジカル・メンタルのトレーニングの他に、集団プレー戦術の『ポジションの概念=ライン間のバランス』を重要性を徐々に教えていきます。
だからスペインで団子サッカーを見ることは、低学年のゲームでも全くと言って良いほど無いのです。
ライン間のバランスとプレーモデルのつながり
ライン間のバランスは「13のプレーシチュエーション」における組織守備の原理原則となります。組織攻撃の原理原則にも「攻撃のライン間のバランス」が存在します。
また、組織守備の集団プレー戦術は、ビルドアップ・前進・フィニッシュ・ロングボールへの対処の4つのプレーシチュエーションの中に全部で2つの原理原則が存在します。
守備のライン間のバランスの定義とキーファクター
ライン間のバランスの定義
前方/後方ラインに位置するプレーヤーとの関係性から導かれる、ライン上に位置する1人のプレーヤーのポジショニング・動き・技術/個人戦術アクションの適切な実行をライン間のバランスと定義する。
守備のライン間のバランスのポイント
組織守備は、相手チームがシュートに辿り着かないことを最終目的とする。相手のミスを誘発させたり、プレー前進を妨げたりするための、『限定』『誘導』『プレッシング』といった目標が存在する。監督は自チームが「どのゾーン」の「どのレーンで」ボールを奪いたいかを事前にプランニングしておく必要がある。
目標を達成するために、他の3つのプレー局面との一貫性と相互関係も重要。特にネガティブトランジションと密接な関係性を持つ。組織守備における各集団プレーシチュエーションにおけるプレー原理として、システムに形成されたディフェンスライン間のバランスが最も重要である。
ライン間のバランスを保ち、「ディフェンスの壁」を多く生み出すことによって、相手のオフェンスタスクを難しくさせる。
守備のライン間のバランスのキーファクター
ライン間の距離を(5m〜40m)保ち、ディフェンスブロックを形成する。 ※自チームのゴールに近づくにつれ、ライン間の距離を減らしていく。 |
ロングボールやクリアボールと同時に、ボール方向へチーム全体がラインアップ、もしくはラインダウンする。 |
ボールの位置によってラインの高さをコントロールする。ラインの上げ下げ。 |
ボール保持者には、できる限りプレス。後ろの選手はライン間のスペースを減少させてカバーをする。 |
アクティブゾーンとディアクティブゾーンのコンセプトを理解し、中央のパスコースを消しながら、スライドを行う。(マーク・ペルムータ・カバーリング) |
ゲームプランに応じて、相手の攻撃を意図的に方向づけて追い込む。 |
前残りしてカウンターを狙うFWのポジションと、ボールを奪った瞬間のチーム全体の役割の確認を行う。 |
まとめ
守備のライン間のバランス。小学校低学年から徐々に教えて行く必要があります。もちろんボールを追いかけ回す「ただ楽しいサッカー」も必要ですから、集団プレー戦術ばかり教えてもいけません。全て『バランス』の問題なのです。
常に「サッカーの原理原則を落とし込む時間」と「単純にサッカー楽しむ時間」のバランスを考えながらトレーニングを組み立てるといいでしょう。
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