ジャイアントキリングを起こす!サッカーで弱小チームが勝つ方法は「4つの優位性」
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はじめに
「え!あのチーム負けたの?」なんてことは、スポーツの世界では当たり前のこと。圧倒的な資金力とタレントを要するビッククラブが、名も無い弱小チームに負けることもあります。
『ジャイアントキリング(番狂わせ)』を引き寄せる。
強い相手に勝つには、サッカーの優位性の基本を押さえておく必要があります。
サッカーは選手個人のクオリティだけで勝てる程、簡単ではありません。監督、コーチ、選手が、サッカーの優位性を「意図的に」生み出すことで、試合を優位に運ぶことが可能となるのです。
本記事ではジャイアントキリングを「偶然」で終わらせない、優位性に関する基本を学びます。
ジャイアントキリングが起こる条件
紀元前500年ごろの中国春秋時代の軍事思想家孫武の作とされる兵法書「孫子(そんし)」。サッカーブラジル元代表監督スコラーリが愛読した書物として有名です。その中で以下の一文があります。
『勝つべからざるは己に在るも、勝つべきは敵にあり』
−不敗の形成を作れるかどうかは自軍の努力次第によるが、勝機を見いだせるかどうかは敵の態勢にかかっている。
守屋淳 2019年 最高の戦略教科書 孫子
負けないチームを作ることは自分たち次第ですが、勝つためには相手の態勢が崩れている。または崩れ始めている状況が必須条件です。そして、その隙を逃さないことが重要となります。特に個人のクオリティで劣る場合、個人同士の真っ向勝負では勝率は下がってしまうでしょう。
「孫子」に興味深い一文が残されています。
『兵法は、一に曰く度、二に曰く量、三に曰く数。四に曰く称、五に曰く勝。地は度を生じ、度は量を生じ、量は数を生じ、敵は称を生じ、称は勝を生ず』
−戦争の勝敗は、次の要素によって決定される。
一、 国土の広さ
二、 食糧生産の量
三、 人口の多さ
四、 敵との戦力バランス
五、 勝敗がどうなるか
つまり、支配する土地が国土の広さであり、国土の広さによって食料の生産の量が決まってくる。すると、食糧生産の量によって人口が決まり、人口の多さ
が敵との戦力バランスを決める。そして戦力バランスによって勝敗は決まってしまう。
守屋淳 2019年 最高の戦略教科書 孫子
サッカーに置き換えると、国土の広さ=市場の広さ(日本とヨーロッパでは回せるお金の桁が違う)、食糧生産の量=資金力、人口の多さ=選手やスタッフの質と量。この3つが、敵との戦力バランス=チームの実力差を生み出し、勝敗がどうなるか=勝敗に影響します。つまり資金力やブランドのあるビッククラブは圧倒的優位な状況であり、勝つことが当たり前と言うことです。
弱小チームが圧倒的不利な中でジャイアントキリングを起こすためには、相手が崩れることが必須条件。個人で劣るなら、4つの優位性を理解してチームで相手を崩すことが必要となります。
サッカーにおける4つの優位性
FCバルセロナの元フィジカルコーチで、バルセロナ体育大学のPaco Seirul·lo(パコ・セイルーロ)教授は、サッカーにおける優位性を4つに分類しました。
1.質的優位性 superioridad cualitativa
選手個人のタレントによる優位性。個人の能力は、「技術・戦術・フィジカル・メンタル」の4つの要素を判断して評価する。質的優位性を利用する場合、以下のような戦術的指示となる。
技術&フィジカル→「相手の右サイドバックは足が遅いから、こちらの足が速くて突破力のある左ウイングをワイドに張らせて1vs1の状況を作ろう」
技術&戦術→「相手MF10番はテクニックがあり戦術理解力もある。彼から攻撃が始まるので、今日は彼をマンマークして、質的優位性を打ち消そう」
質的優位性をうまく活用するには、選手の個人分析が必要となる。各選手のマッチアップを考えれば、質的優位か不利かの状況が見えてくる。実力ある選手を対戦させることで、優位性を相殺することも可能である。
【合わせて読みたい】【連載:セビージャで戦うサッカー監督】スペイン現場試合分析1(全3回)
2.数的優位性 superioridad numérica
サッカーの世界で最もポピュラーな数的優位性。攻撃のサポート、守備のカーバリング等、サッカーには「1vs1の状況を2vs1にする」戦術が多く存在する。数的優位性を利用する場合、以下のような戦術的指示となる。
「相手ウイングのプレスバックが遅いので、サイドバックはサイドでウイングと協力して2vs1を作ろう」
「ボールを保持するセンターバックにプレッシャーがかかっている時は、ボランチやサイドバックは下がって2vs1の状況を作るサポートしよう」
数的優位性をうまく利用するためには、ピッチを切り取って、各場面での味方選手と相手選手の人数を把握する必要がある。例えば、ビルドアップに行き詰まっている時は、数的同数になっている場合が多い。
3.位置的優位性 superioridad posicional
位置的優位性はチーム全体、もしくは個人の配置による優位性を指す。チームの場合は、フォーメーションの噛み合わせ。個人の場合は、相手のラインを超えるポジショニングを考慮した修正・調整が必要である。位置的優位性を利用する場合、以下のような戦術的指示となる。
「4-4-2vs4-4-2のマッチアップだと各選手のクオリティの勝負になる可能性が高い。可変システムを利用して、ビルドアップでは3-5-2に変化させよう」
「4-2-3-1vs4-3-3のマッチアップでは、位置的優位性をうまく活用できない。中盤の三角形を回転させてボールを前進させよう」
位置的優位性をうまく利用するためには、相手チームと自チームのフォーメーションの特性や相性を把握することが望ましい。
4.社会的優位性 superioridad socio-afectivo
社会的優位性とは、選手やグループの関係性の親密度やフィーリングによって形成される。例えば、FCバルセロナ黄金期のメッシとダニエウ・アウベスのコンビネーションが象徴的である。選手たちは組み合わせによって社会的優位性を発揮し、グループで敵を圧倒する。社会優位性を利用する場合、以下のような戦術的指示となる。
「2トップに背の高いFWと足の速いFWを置いて、ロングボールと背後のスペースを両方狙おう」
「長年一緒にプレーするサイドバックとウイングを並べることでサイド攻撃を活性化しよう」
社会的優位性を見抜くためには、オフ・ザ・ピッチの選手行動を観察する必要がある。強力なコンビネーションは、ピッチ上だけで作られるわけではない。メッシとスアレスの美しい連携プレーも、彼らがピッチ内外で「親友」だからこそ生まれるものである。
終わりに
質的優位性ばかりに目を向けていては、ジャイアントキリングも「まぐれ」で終わってしまいます。学年によって成績に大きなムラがある場合、選手のクオリティにフォーカスし過ぎている可能性があります。数的・位置的・社会的優位性の戦略・戦術に目を向けることで、チームの更なるレベルアップに繋げましょう!
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