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ドリブラーが激減したスペインサッカー。「突破のドリブル」減少の要因は?


目次[非表示]

  1. 1.はじめに
  2. 2.Regate(レガテ)「突破のドリブル」
  3. 3.昔と今の違い
  4. 4.ペップバルサやスペイン代表の黄金期サッカーが影響
  5. 5.育成カテゴリーも抱える同じ問題:見出すべき活路
  6. 6.最後に

はじめに

この夏、東京オリンピックにスペイン代表として出場したブライアン・ヒル、マルク・ククレジャが共にラ・リーガからプレミアリーグへ移籍した。前者はヘタフェからブライトン、後者はセビージャからトッテナム。利き足と逆のサイドでプレーし、カットインからのシュートを狙う「現代型ウィング」でなく、ブライアン・ヒルとククレジャは、左利きながら左サイドから縦へと推進する「従来型ウィング」。

ただでさえドリブラーが減少傾向にある現代サッカーにおいて、これだけ希少価値に等しいプレーヤーの移籍は、大きな痛手である。しかし、この手の選手がスペインリーグにいなくなる現象は、もしかしたら必然なのかもしれない。

元スペイン代表・Aマドリードのレジェンド、フェルナンド・トーレス氏がサガン鳥栖で現役引退をした2019年に語っていた、日本と海外サッカーの違いである「ミスへの恐れ」。

「日本では選手がミスを許されないところを見てきた。それでは若手の選手たちはミスを恐れるようになってしまう。ミスをしてはいけないと考え始めてしまうと選手として成長できない。若手の選手たちはミスをすることを経験していなければならない。スペインでは多くのミスをすることが認められていて、挑戦する事ができる。彼らは開放的で学ぶ意欲がある」

2年を経て、ことドリブルにおいては近年スペインにも「ミスが許されない」日本と同じ現象が起きているのかもしれない。実際、昨シーズンは「シュートを打つ前にドリブルを仕掛けた回数」が欧州5大リーグの内、4位(5位はブンデスリーガ)(出典:サッカー専門データサイトFbref)。縦への「突破のドリブル」を仕掛けるウィングが少なくなってきている要因を、現役選手や指導者がスペインウェブサイト『El Confidencial』で語ったコメントから探る。

https://www.elconfidencial.com/deportes/futbol/2021-01-05/espana-extincion-regate-liga-desborde-europa_2894744/

【合わせて読みたい】【スペイン流サッカーポジション別役割まとめ】ウイング(攻撃時のタスク)

Regate(レガテ)「突破のドリブル」

 ボールと一緒に移動するための技術アクション。 運ぶドリブルとは違い、相手を突破することが目的である。 レガテを有効的に用いることにより、数的優位を生み出すことができる。


レガテが有効な状況
レガテを避けるべき状況

・相手ペナルティーエリア付近で、

シュートのイメージを持っている場合。


・ボール保持者が孤立し、他のオプションがない場合。


・次のアクションのイメージを持っている場合。

・自陣のペナルティーエリア付近で、
相手に囲まれている場合。

・シュートアングルが存在する場合。

・パスがプレー状況解決に最適なアクションである場合。

スペインにおけるドリブルは、突破のドリブル(Regateレガテ)と、運ぶドリブル( conducciónコンドゥクシオン )の2タイプに分けられ、状況によって使い分ける判断が重要視されています。

【合わせて読みたい】コンドゥクシオンってなに?スペインの常識『運ぶドリブル』をマスター!

運ぶドリブル Conducción

昔と今の違い

1部エスパニョールで7シーズン、2部テネリフェで1シーズンプレーした元ウィングのマルティン・ポッセ氏はこう語っている。

「現在は、育成指導者も少年たちに戦術を細かく教える。我々の時代は、選手としての能力、ポテンシャルによってプロになれたが、戦術について学び始めた時期はプリメーラに辿り着いてからだった。今はポゼッションやゲームのコントロールを大事にしていて、そのおかげで少年たちはコントロールやパスなどの基礎技術に長けている。その代わり1対1においては消極的だ。」

2018/19シーズンはウエスカ、2020/21シーズンからカディスの選手としてプリメーラでプレーしているDFカルロス・アカポ選手。現代サッカーにおけるドリブラー減少の要因は、サイドでプレーする選手の役割にあるとコメントしている。

「今は攻撃よりサイドバックのサポートを重視する。カディスのウィングはほぼ第2のサイドバックとして守備に徹している。すると選手同士の距離も短いから、コンパクトなブロックを形成できる。そして1対1の状況が少なくなる、それは必然だ。実際、昨シーズンはヴィニシウスに抜かれる事はそれほどなかった。また、多くのチームがボールロストを恐れ、サイドでドリブルよりクロスを上げる方が好まれる」

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突破のドリブルが効果的な数的同数、守備側の数的不利などの状況でのディフェンスの個人戦術が向上し、ライン間のバランスを保つ組織的な守備やディフェンストランジションでの素早い後退が当たり前となり、スペースが減少しピッチ上における1対1の状況は少なくなった。

ペップバルサやスペイン代表の黄金期サッカーが影響

6冠を達成したグアルディオラ監督率いるバルセロナ、EURO2連覇・ワールドカップ優勝を果たしたスペイン代表が見せたフットボール。スペインサッカーといえば、「ポゼッションサッカー」、「パスサッカー」というコンセプトが植え付けられた。しかし、奇しくもそのスペインサッカーを象徴するフィロソフィーが、同国におけるドリブラーの減少に繋がっていると言える。1部、2部含め500試合以上出場を果たし、現在は指導者として活動しているホルヘ・オテーロ氏はこう語る。

【戦術解説】黄金時代ペップ・バルサ愛用のゼロトップシステムを使おう

「私はペップと仲が良い。だからこそ彼にはいつも言う。現代サッカーの責任はバルサにあると。彼らは精度の高いパスのおかげで守備ラインを飛び越えれたけど、そのハイクオリティなパスが出せなければそれは不可能。スペインではサッカーはとてもメカニズム化されていて、守備を重視する。ポジショニング、リトリート... 一方で攻撃は突発的なプレーが減り、選手の個性を殺し、展開も予測可能な試合が増えた」

パスを重宝する「サッカー文化」だと、輩出する選手の多くは当然その特徴を有す。1部エスパニョールで7シーズン、2部テネリフェで1シーズンプレーした元ウィングのマルティン・ポッセ氏はこう語る。

「工場で例えるとしたら、スペインはシャビやイニエスタの様な選手を造る。しかし、フェラン・トーレスやアダマ・トラオレの様なウィングはあまり出ない(それぞれ、バレンシアとバルサの下部組織で育つも、現在はプレミアリーグでプレー)。ゲームは主に中央エリアで展開され、ポゼッションとコントロールを重視し、利き足と同じサイドでプレーする従来のウィングは減っている。スペインサッカーのアイデンティティはリスクを冒さず、安全なパスワークを求める」

育成カテゴリーも抱える同じ問題:見出すべき活路

そしてこれは、育成カテゴリーにおいても生じている問題だという。カタルーニャの中でも名誉高い育成クラブ、ダムで指導経験を誇るホルヘ・オテーロは語り続ける。

「育成年代ではボールが全て足元に行く。これに慣れてしまうと、相手のポジショニングが悪くて走れるチャンスの時にウィングを活かせるロングパスが出せない、そのビジョンすらない。現代のウィングは中でプレーし、サイドバックが来るまで待つ。アンプリトゥ(幅)を広げる選手はサイドバック」

「ドリブルに失敗する少年を叱るというよろしくない光景も少なくない。少年ならいつ、どこでもドリブルすべきだ。その年代で怒ったりしたら、才能を潰しているも同然。カテゴリーが徐々に上がるにつれ、いつ、どこでドリブルを仕掛けた方が良いか教えていくべき。今時はアレビン(U10‐11)の子達でさえ戦術やプレスについて教えられる。我々は早過ぎる段階で『サッカー選手』を作り出そうとするが、子供たちには自分が好きなプレーを表現してもらい、失敗して欲しい。育成年代でも結果を気にしすぎて、彼らが少年だということを忘れがちだ。声を荒げて彼らから自由を奪うと、最終的には全てがトラップ・パス、トラップ・パスの連続になってしまう」

ポッセ氏は「選手達にはいつも、ボールを失うことは問題ではない、失った後何をするかが重要だと言っている」と語る。

【合わせて読みたい】トラップ際を狙わせない!サッカーの試合でつかえるトラップのコツ【3ステップ】

最後に

長年の歴史を持ちながらも留まる事無く、常に試行錯誤し議論が生まれるスペインサッカー。

FCバルセロナの育成でもJugador desequilibrante 「フガドール・デスエキリブランテ」(ドリブラーなど、バランスを崩す選手という意味で使われる)の出現が期待され、すでに動き始めているようだ。

『Revolución en la Masia: Priorizan al extremo y ‘castigan’ al lateral』

『ラ・マシアの変革:ウイングを優先し、サイドバック”苦しめる”』


スポーツ紙「スポルト」の記事には、バルサの新たな幹部達によって育成年代のウイングのポジションには利き足と同サイドの選手を置くよう提案がなされたと掲載されている。

近年多く見られる、高い位置を取るサイドバックとのコンビネーションでサイドを崩す、利き足と逆サイドでプレーする「現代型ウイング」ではなく、1対1を果敢に仕掛ける「従来型ウイング」が見られるのか、また”苦しめる”と表現されたサイドバックの新たなコンビネーションや突破のドリブルを引き出す仕掛けが見られるのか。

現代サッカーを分析し、「従来型」をも上手く取り入れバージョンアップするスペインサッカーから今季も目が離せない。




杉森正人

杉森正人

スペイン・マドリード在住スペイン生まれの日本人。スペイン4大サッカー紙のひとつMARCA(マルカ)で記者としてインターンを経験。在籍時には、スペイン語・日本語の2カ国語をネイティブレベルに扱える強みを活かしたサッカー記事を執筆した。現在は現地コーディネート会社に勤める。

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