2018ロシアFIFAワールドカップ・セットプレー分析総集①(全5回)
現代サッカーで日に日に重要性を増しているセットプレー。2018FIFAワールドカップロシア大会でも多くのゴールがセットプレーから生ました。FIFAの公式記録によると、30%以上のゴールがセットプレーから生まれたようです。
FIFAの公式ページ記録→https://es.fifa.com/worldcup/statistics/
そこで今回は2018年FIFAワールドカップロシア大会のセットプレーの分析を行います。セットプレーには、キックオフ、ゴールキック、CK、スローイン、直接FK、間接FK、PKが、攻守において存在し、さらにドロップボールも含まれます。データが示すように現代サッカーにおいてセットプレーから多くの得点が生まれていますし、それはロシアワールドカップでも同様でした。
本編は、セットプレーにおいて多くのバリエーションを持っているイングランドに注目し、CK(コーナーキック)の攻撃を分析します。
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シーン① イングランド対パナマ、前半8分。
イングランド対パナマ、前半8分。
【画像1】白がイングランド、赤がパナマ
《パナマ》
11人で守備をします。黄色丸の3選手がゾーン、他の選手はマンマークです。
《イングランド》
☆キッカー
右サイドから右利きのトリッピアーが蹴るので、アウトスイングのセンタリングとなり、GKは少し前に出ています。リンガードをショートコーナーが受けられる位置に置くことで、DF一人を引き出します。
☆ペナルティーエリア内
ペナルティースポットの後方に4人の選手たちでラインを形成し、1対1が生まれています。そのラインの前にはスターリングがいます。
☆ペナルティーエリア外
ストーンズとヤングがいます。ここでのポイントはヤングが相手をブロックし、ストーンズがペナルティースポットにフリーで入れる状況を作ることです。
【画像2】
☆キック後の動き
センタリングはペナルティースポットを狙っています。そこを中心に黄色ラインを形成するように選手たちが入っていきます。ニアにはロフタスチーク、その後ろにはヘンダーソン、ストーンズがペナルティースポット、さらに後ろにはマグワイアが入ります。そしてスターリングはファーポストへ流れ、さらにケーンもファーポストに入ろうとしますが、相手にブロックさます。
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【画像3】
☆フィニッシュ
ストーンズがフィニッシュするために使うスクリーンプレーは、ここ最近良く見ます。さらにキッカーがペナルティースポットを一つの目安としてパスを送るのも珍しくありません。
シーン② イングランド対チュニジア、前半10分。
CKから2得点を決めたチュニジア戦を見てみましょう。前半10分。
【画像4】イングランドは赤、チュニジアは白
《チュニジア》
2人がショートコーナー対策、ゴールエリアライン上のニア、ファーポストに一人ずつ配置、さらに2人がイングランドの選手たちをマークします。ペナルティースポットの高さ、ファーポストよりに3人をゾーンで配置します。そしてペナルティーエリア外に一人配置します。インスイングのキックとなるので、GKはライン上にいます。
【画像5】
《イングランド》
☆キッカー
左サイドからのCKを右利きのヤングが蹴ります。リンガードを近くに置いてショートコーナーの可能性を見せることで、チュニジアDF2人を引き出します。
☆ペナルティーエリア内
ゴールエリアのライン上に2人の選手を配置します。そしてペナルティースポットの数m後ろを基準に4人がラインを形成します。
☆ペナルティーエリア外
トリッピアーがリバウンドを狙います。
【画像6】
☆キック後の動き
ここでもターゲットはストーンズ(青)です。しかし、ヘンダーソンが囮となり、黄色ゾーンに先に入ることで、相手のDFを一気に引き付けます。元々4人のラインに対して相手は3人のDFで対応するため、数的有利をイングランドが作ります。ストーンズはペナルティースポットへと入り、その後方にマグワイアが入ります。ケーンはファーポストに入り、セカンドプレーに対応します。ゴールエリアにいるスターリングとアリは、キック直後に相手をブロックして、ボールにアタックさせないことが狙いですが、スターリングは相手を離してしまいます。しかし、もう一つの仕事であるリバウンド狙いは行います。
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【画像7】
【画像8】
☆フィニッシュ
ストーンズが合わせますが、GKに止められます。しかしイングランドは4人の選手たちをゴールエリアに送ることで、リバウンド対策も行っています。そしてケーンが詰めてゴールとなります。
このゴールで鍵となるのは、ペナルティースポットへのセンタリングにストーンズが合わせに行き、そのために仲間がブロックを使うか、囮となることで、彼がフリーで合わせられる状況を作ることです。そしてファーポストをケーンが狙い(パナマ戦はブロックされた)、ゴールエリア内ではリバウンド狙う選手たちを配置しています。
シーン② イングランド対チュニジア、決勝ゴール。
【画像9】
このチュニジア戦、イングランドはロスタイムにCKから決勝ゴールを決めます。ペナルティースポットにいたストーンズに、トリッピアーの右足からアウトスイングのセンタリングが上がりますが、彼の前に入ったマグワイアが合わせ、ファーポストに入って行ったケーンがそのボールを押し込みます。ゴールエリアでは2人の選手たちがリバウンドに備えています。
イングランドの狙いは、ストーンズがペナルティースポットで合わせること。それに合わせた動き方にバリエーションはあります。ケーンはファーポストに入り、ストーンズが合わせるパスコース上には他に2人が入り、ゴールエリアには1、2人の選手が相手をブロックし、リバウンドを詰めるために配置されますが、ペナルティーエリア外からストーンズが入ると、人数に違いが出ます。そしてショートコーナー要員に一人。ペナルティーエリア外に一人が配置されます。
まとめ
イングランドは複雑な動きをしているわけではなく、明確な狙いを持ち、適切なタイミングでそれぞれが仕事をすることで、チームのゴールを生み出しています。
対戦相手はその狙いを抑えなければ失点に繋がりますが、すでにこれだけのバリエーションを見せているため、イングランドが相手の逆手を取るため、狙いを変えることも考えられます。セットプレーには様々な駆け引きが隠れているのです。
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