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サッカーで学ぶ社会性 - スポーツを通じて身に着ける価値観とは -


目次[非表示]

  1. 1.はじめに
  2. 2.社会、社会グループとは
  3. 3.ソーシャル・ネットワーク(社会網)としてとらえる「スポーツ」というゲーム
  4. 4.価値観を伝えるツールとしての「スポーツ」
  5. 5.まとめ


はじめに

チームスポーツであるサッカーを通じて学べることは、戦術や技術、スポーツにおけるメンタルの面などはもちろん、ピッチ外、練習場外で応用できることが数多くあります。社会という周りの環境から人間として成長、進化していく上で、サッカーという集団スポーツと引き離すことは不可能な「社会性や価値観」。

この記事では、カタルーニャサッカー協会コーチングスクールでも一つの教科として取り扱われるテーマ、サッカーというスポーツと社会性の繋がりについて、そしてサッカーを通じてどういった価値観が身につけれるかを見ていきましょう。


社会、社会グループとは


人間とは社会的動物 (ゾーン・ポリティコン ZOON POLITIKON) であり、生き延びるには他の同類を必要とします。人間ひとりひとり、生まれたときから何らかの社会グループの中で生活をし、その社会の環境、文化などを常に習得していくのです。こういった、何らかの共通点、仲間意識をもつ人間の集まりを「社会」といい、人間は「社会的動物」(ソーシャル・アニマル)とされます。


社会化のプロセス
「社会」の中で生きていく上で必要なのが「社会化」です。
社会化(ソーシャライゼーション)のプロセスとは自身の周り、環境を把握し自分のものにし、適応することを言います。

これは自身の経験や、その環境を構成する人間から受ける影響から成り立ちます。
ひとりの人間として社会化のプロセスから得れるものとは、その環境、文化で正しいとされる行動や、一定の状況でどういった反応が求められるかを理解することです。

こういった正しい行動や社会が求める反応などと繋がっているのが各々の「社会的役割」です。

スポーツクラブにおける社会的役割の例:スポーツダイレクター、幹部、代表、アスリート、コーチングスタッフ等。こういったソーシャルグループのなかにある肩書、ステータスには様々な行動が求められ、社会的役割が別々で存在します。


スポーツとソーシャライゼーション(社会化)
では、スポーツと社会、スポーツと社会化の間にはどういった繋がりがあるのでしょうか?

スポーツにおける社会化
サッカーというゲーム自体を理解すること。スポーツの活動以外、周りの環境との関係性などとは別。

スポーツを通じた社会化
サッカーというスポーツに携わることで、周りの環境、文化など競技以外の生活面や人と人との関わりかたに影響があること。(道徳や態度、行動など)


テクニックの話、戦術の話だけではサッカーというゲームを理解することは出来ません。

チームスポーツで試合に勝ちたい、結果を出したい、目標を達成したい時に必要となる要素、必要とされる能力は何か。スポーツにおける社会化、サッカーを理解すること(共同、協働スポーツ)とスポーツを通じた社会化、人との関わり方(コミュニケーション能力など)の関係性が見えてきます。


合わせて読む♪
★育成年代におけるチームマネジメント


社会化における要素
・一定の環境にいる人間は孤立した状態では社会や文化の特徴を吸収しません。同時に周りにいる他の要素と、人間一人一人がもつ社会的役割の中で自分の社会的な居場所、役割を見つけていくのです。その個人個人が集まって関わりを持ち、初めて社会というものが成り立ちます。
・団体、グループ(個人の集まり)が社会化における要素で最も重要なものになります。


この社会化のプロセスは主に2種類のグループで成り立ちます。

第一の社会化グループ

「 ともに過ごす時間が長い、もしくは関係がかなり深いグループ」

家族はソーシャライゼーションにおいて共に過ごす時間も長く、関わりも深いグループである。

スポーツチームというグループは個人が定期的に、場合によっては毎日関わりを持ち、関係も深くインテンシブなケースが多い。

インテンシティーが高い、激しい感情を継続的に分かち合うことからも、スポーツチームは主にこの第一の社会化グループに当てはまるとされています。


第二の社会化グループ

「グループの一員ではあるが、そこまで個人個人のことも知らず、深い関係を持たない」

•団体を構成する人間は相手の個人的なことを知らないケースが多く、直接関係をもつことが少ない。

•会員が数千人以上いる大規模なサッカークラブ。大・中規模の企業。

人間形成において、共に過ごす時間の長い家庭や学校のクラスという環境で得るもの、影響するものの大きさは言うまでもありませんが、スポーツチームが同じ第一の社会化グループに入る理由は「時間」と言う要素だけではなくその環境の「密度」によるものであると考えます。




社会と社会の中のグループ
何らかの共通点を持つ人間たちの集まりが「社会グループ」とされるにはどういった条件が満たされないといけないのでしょうか。

1) 相互的な関係があること
グループ、団体を構成する個人個人の関係は一方的ではなく相互的であり、この関係には継続性があること。

2) グループ・団体意識があること
共通の目的、価値観があること。グループ内での社会的役割は別だとしても、共同で成し遂げれる目的などが共通している必要がある。

サッカーチームはこれらの条件を満たしているでしょうか?社会グループといえるでしょうか?


例:サッカーチーム内でのコミュニケーションは一方通行か、相互的か?

チーム内にいる、異なるポジションでプレーする選手たち。得点を決める役割のフォワード、ゴールを守る役割のゴールキーパー、異なる役割ではあるが、二人の目的は?…



サッカーというスポーツ、ある種のゲームを通じて社会性を伝えるためには、「ゲーム」とは何かをまずは理解する必要があります。



ソーシャル・ネットワーク(社会網)としてとらえる
「スポーツ」というゲーム

社会学の観点から観る「ゲーム」とは
限られた時間、スペースの中、何らかのルールを守りながら、非現実的な空間で緊張や喜びを楽しむアクション。 (Huizinga, J. 1984)


スポーツゲーム
社会学の観点からみるスポーツゲームの違い

ゲームの組織が制度化されたものがスポーツとされています。

制度的スポーツ
制度(協会、政治団体など)の認識を得て活動を行うゲーム

参加する組織は規定を守らなければならない。ピラミッド形式(昇格、降格あがる)のシステムなどで競技をするケースが多い。

非制度的スポーツ
ゲームにはルールはあるものの、制度の認識が欠けている。

伝統スポーツ、伝統競技と呼ばれるものがある。
正式な規定はなく、似たようなゲームが様々な国で見られることがあるが、地域ごとに違いがあるケースが多い。(鬼ごっこ、かくれんぼ等)


スポーツゲームの分類
分類するためにみる要素は以下の3つのものになります。

仲間・チームメイト (協力)

相手 (敵)

ゲームが行われるスペース(変動するか、しないか)

サッカーはバスケやハンドボールなどと同じ、決められたスペースの中で、仲間と協力し、相手と競い合う制度的ゲームとされています。

中でもプレーするスペースが広く、人数が多い種目。味方の助けが「必要不可欠」であり、助ける方法は数多く存在します。

価値観を伝えるツールとしての「スポーツ」

スポーツ活動とは、単なる運動だけではありません。一定の社会グループの中で行われる場合、より一層身体を動かす以外の要素が含まれてきます。個人の生活、ソーシャルライフの質を向上させるツールとして、スポーツの教育面は非常に重要とされています。

スポーツは数多くの価値観を与えてくれます。スポーツ活動を通じて協力、連帯、苦境の乗り切るメンタルなどポジティブな価値観はもちろん、場合によれば競技、結果を重要視しすぎて社会的にネガティブな価値観を伝えることもあります。(自己中心的行動、挑発、リスペクトの欠如など)

スポーツ団体の中で責任を持つ人間、団体自体が、(特に)育成年代の選手たちに伝えられる価値観が常に社会的にポジティブであることを心がけねばなりません。プロレベルになると、社会的価値観の伝達と競技の重要さのバランスが変わってきますが、育成年代ではスポーツ自体の習得と正しい価値観の理解が共に大切となります。


スポーツを通じて学べる価値観

スポーツ活動、この場合サッカーをする上で選手たち(特に育成年代)に正しい価値観を伝える責任者は指導者です。

スポーツを通じて伝えることができるバリュー・価値観は以下のものなどがあります:


社会性
あのFCバルセロナも、クラブが大切にしている重要な価値観として、

Humilidad(謙虚)

Esfuerzo(努力)

Ambición(野心)

Respeto(リスペクト)

Trabajo en equipo(チームワーク)

の5つを掲げ、それぞれの頭文字をとってクラブのHEART(ハート:心)と言う表現をしています。

もちろんここにあげたもの以外にも沢山のワードが出てくると思います。

サッカーというスポーツがもたらすもの、サッカーを通じて学べること、伝えられる事を改めて考えることが本当の意味での競技レベルの上達に繋がるのではないでしょうか。


まとめ

スポーツ、特にサッカーのようなチーム競技には常に社会性との関係性があります。社会という枠の中にいる限り、周りの環境や人々、社会グループから影響を受けて人間として成長、進化、「社会化」していくのです。

特に育成年代の指導者には、スポーツ外での生活において必要となる価値観を選手たちに伝える義務があります。ネガティブな価値観を伝えてしまうリスクもあるということを把握したうえで、競争や結果が求められる中でも指導者一人一人が自分の中の大事な価値観を整理し、その大切な価値観をどういう方法で伝えていくかを考えることも指導者の重要な役割なのではないでしょうか。




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スーペルクラック編集部

スーペルクラック編集部

スペイン・バルセロナを拠点に活動。「本物のスペインサッカーをありのままに生き生きと伝えたい」そんな想いで日々コンテンツを更新する。ライター、サッカー監督、プレーヤー等、多岐にわたるスペイン在住邦人が執筆・編集。深くサッカーを学びたいあなたへ。

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