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【ラ・リーガ試合分析FCバルセロナvsベティス】ポジショナルプレーの激突


目次[非表示]

  1. 1.はじめに
  2. 2.ポジショナルプレーと見せかけたショートカウンター戦術
  3. 3.ゴールキック/守備のマークの組み合わせで、個の優位性を消したベティス
    1. 3.1.①中間ポジションを選択した保守的バルサ。マンマークとミックスマークを併用した積極的ベティス。
      1. 3.1.1.ベティス・ゴールキック時のバルサの守備
      2. 3.1.2.バルサ・ゴールキック時のベティスの守備
    2. 3.2.②ベティスの罠~ロングボール対応・クオリティの秘密~
      1. 3.2.1.バルサのロングボール対応
      2. 3.2.2.ベティスのロングボール対応
  4. 4.プレスバックのオーガナイズ
    1. 4.1.①バルセロナ
    2. 4.2.②ベティスのプレスバック(マンマークからゾーンへ)
    3. 4.3.組織攻撃の位置的優位性でも上手だったベティス(中盤のポジションチェンジによる外し)
  5. 5.キケ・セティエンのしたたかさ
  6. 6.まとめ

はじめに

バルベルデ率いるFCバルセロナと、キケ・セティエン率いるレアル・ベティス。

※出典 リーガ・エスパニョーラ公式HP https://www.laliga.es/directo/temporada-2018-2019/laliga-santander/12/barcelona_betis (この写真はラ・リーガの許可をとって掲載しています)

注目の対戦となったリーガ・エスパニョーラ第12節は、お互いにボールポゼッションで主導権を握るサッカーをプレーモデルとするチーム同士の戦いになりました。結果は3対4に終わり、ベティスは20年ぶりにカンプ・ノウで白星をあげました。

FCバルセロナは言わずと知れたポジショナルプレー志向する「クラブ」。ヨハン・クライフがFCバルセロナの美しいパスサッカーのモデルを作りました。それ以降、クラブは「ポジショナルプレー」をプレーモデルとし、その道を極めました。

逆に、ベティスはポジショナルプレーを志向する「監督」が作り上げたサッカーです。キケ・セティエンは、リーガの中でボールを保持することにこだわった監督として有名です。どのクラブに行っても彼の信じるポジショナルプレーのサッカーがピッチに反映されます。

ベティスは去年、彼を迎えるまで、降格争いをするほど低迷していました。しかし、キケ・セティエンを迎えた1年目、リーグ戦6位でヨーロッパリーグ出場権を獲得するまでに躍進。ショートカウンターが主流の現代サッカーにおいて、ポジショナルプレーで結果を残し、リーガ全体に圧倒的なインパクトを残しました。

まさに「クラブ」vs「監督」が描かれるポジショナルプレー対決。勝敗はポール保持率とは真反対のポイントに隠されていました。


ポジショナルプレーと見せかけたショートカウンター戦術

試合は、バルサが4-3-3。ベティスが、3-4-1-2のフォーメーションでキックオフします。

このゲームで最も注目すべきは、得点につながる決定機が生み出された「キッカケ」でした。

両チームともにゴールキックからボールを丁寧につないでいくスタイル。これを打ち消すため、ゴールキックから簡単につながせないプレッシングをゲームプランに組み込んでいました。

この試合、決定機の原因を分析すると・・・。なんとチャンスシーンほとんどが、次のアクションから生まれていました。

★ショートカウンター

★ロングカウンター

★セットプレー

「ポジショナルプレーで丁寧にボールを繋ぎ、相手を崩してゴール前にたどり着く場面は、ゲーム全体を通して数回しか見られなかったこと」が印象的となる結果です。


ポジショナルプレーを志向する両チームの対戦は、攻撃の完成度。


ではなく・・・「ハイプレッシングにおけるオーガナイズの緻密さ」

つまり、守備の完成度が試合を優位に運ぶ鍵となったことが興味深いポイントとなりました。


ゴールキック/守備のマークの組み合わせで、個の優位性を消したベティス

①中間ポジションを選択した保守的バルサ。マンマークとミックスマークを併用した積極的ベティス。

ベティス・ゴールキック時のバルサの守備

個の能力で優位に立つバルサは、ベティス側ゴールキック時に「中間ポジションによる前線からハイプレッシング」を採用しました。

ベティスはバルトラがポジションを上げ、一時的に4-4-2(ダイヤモンド)の形を作ります。これに対してバルサは、ベティスの中盤ダイヤモンドの4人を、アルトゥール・ラキティッチ・ブスケツ・マウコム4人で、中間ポジションを取り対応しました。

また、ベティスのシジネイ(左CB)は右利きでビルドアップに不安がある点。

ジュニオル(左WB)はスピードはあるが足元でのボールコントロールに不安がある点。

この2つから左レーンへ相手を追い込むプランを立てます。

しかし、マウコムの戦術理解度が低く、何度もグアルダードがフリーの状態になります。危機管理能力の高いブスケツが、ベティスのキーマンであるグアルダードへマークする形に。その結果、トップ下へのケアが遅れ、ロングボールへの対応にズレが生じていました。

バルサ・ゴールキック時のベティスの守備

両チーム、フォーメーションは「鏡合わせ」になっています。図のようにピッチ全体に1vs1の状況が生まれていることがわかります。

ベティスは、ゴールキックを繋がせないため、「マンマーク&ハイプレス」にトライしました。ロングボールを蹴られた場合は、スピードと高さで勝るセンターバックたちが、相手の3トップに対応する戦略です。ロングボールを多用せざる得ない状況に追い込まれたバルサ。ベティスのロングボール対処の罠にハマってしまいます。


②ベティスの罠~ロングボール対応・クオリティの秘密~

バルサのロングボール対応

バルサの問題は、ロングボールを蹴られた場面におけるセンターバックとアンカーの対応でした。

中盤に数的不利があるため、ベティスのロ・チョルソ(トップ下)と2トップを捕まえきれません。

前半10分の間に、ロングボール対処のミス2回から(ピケとブスケツが1回づつ)決定的なチャンスを作られます。これにより、チーム全体にゲームプランに対する疑問が生まれ、ハイプレッシング成功に不可欠なインテンシティが落ちてしまいました。

前線からのマンマークは危険と考え、保守的な守備を選択したバルサ。中盤の数的不利を利用されて、心理面でベティスに優位に立たれます。

ベティスのロングボール対応

ベティスの自殺行為とも思われるハイプレス&マンマーク・デフェンスは、実は巧妙に仕掛けられた罠でした。

シジネイとマンディの両CBにマウコム、メッシのマークを担当させます。バルサの前線は、足元に入れば怖い選手たちですが、空中戦とスピード勝負ではフィジカル能力で勝るセンターバックが有利です。

スアレスへのロングボールはバルトラが対応。こちらはスアレスに分がありますが、中盤に2枚ボランチを揃えるベティスは、彼らのプレスバックで圧力をかけれます。その結果、すべてのロングボールをシャットアウトすることに成功しました。

メッシがトップ下気味に落ちてきた場面では、「ミックスマーク」を使用。メッシを中盤でフリーにさせず、バルトラがメッシのマークに上がり、両脇のCBが閉める形をつくっていました。

ロングボールの対処で心理的な優位性を得たベティスは、前半の2得点を呼び込みます。1点目はロングカウンター、2点目はバルサのプレッシングに対する疑心をうまくついたゴールでした。


プレスバックのオーガナイズ

①バルセロナ

前線からのハイプレスをかわされたあと、「プレスバックにおけるスピードとオーガナイズ」に疑問が残りました。

メッシ・スアレスを前線に残すプランだったようですが、守備に参加しないメッシのケアが間に合わず・・・。セルジ・ロベルトとラキティッチが呼吸できない状態になっていました。

ゾーン2で組織を立て直せず、ゾーン3までズルズルとラインを下げることになります。

その結果↓

ホアキンのライン間へのサポート・ジュニオルのスピード・ウィリアムとロ・チェルソのポジションチェンジ。

これらのアクションによって、右サイドから何度もチャンスを創出されていました。

②ベティスのプレスバック(マンマークからゾーンへ)

ベティスはハイプレスを超えられた場合、プレスバックの位置が全体で共有されていました。

まず、ゾーン1からのプレスをはがされた場合、ゾーン2での守備ブロックを諦めます。ゾーン3自陣ゴール前でのゾーンディフェンスに変化させ、フォーメーションは3-4-1-2から、5-3-2へシステムチェンジ。

その後、メッシサイドの守備を重視し、ダブルボランチを配置します。さらに、逆サイドのスペースが危険な場合は、ロ・チェルソが戻ってケアしていました。

ゾーン2でのオーガナイズを捨てたことで、全体のプレスバック意識が上がる。

これは、ハイプレスをかわされたあとのプレスバックの人数に現れていました。


組織攻撃の位置的優位性でも上手だったベティス(中盤のポジションチェンジによる外し)

ゾーン2の攻撃オーガナイズにおいても、ベティスが位置的優位を作り出し先手をとります。

下図のようにポジションを守っていれば、フォーメーションの組み合わせから完全に位置的優位性を守備側へ握られる↓

そこでベティスが行った戦術は、中盤のトライアングルを回転させ、ホアキンとロ・チェルソをライン間に出現させることでした。

これにより、ブスケツの両脇のギャップに選手を配置することに成功します。さらに、メッシの守備が甘すぎるため、ラキティッチがジュニオルとウィリアムと常に数的不利になっていました。

その結果、ラキティッチの負荷が極限まで達し、最後のレッドカードとなったファールでは完全に出遅れていました。


キケ・セティエンのしたたかさ

後半17分。ベティスは、ホアキンが体力的に限界をむかえピッチから消えていたので、カナーレスをピッチに投入します。このタイミングでフォーメーションを5-4-1に変更。さらに、10分後にスピードのあるセルヒオ・レオンを1トップのポジションに投入します。


FWに代えたMFカナーレスの投入と、5-4-1へのフォーメーション変更で「2点差を守り切るぞ!」というメッセージをピッチに送ります。

つづけてセルヒオ・レオンの投入することで、「カウンターも狙っているぞ」というメッセージを送るキケ・セティエン。これにより、チーム全体が下がりすぎることを防いだことも「彼の采配したたかさ」でした。


まとめ

「ポジショナルプレーの激突」はどうでしたか? 

今後も目が話せないリーガ・エスパニョーラ。試合分析する力をつけて、もっと楽しみましょう!!

※出典 リーガ・エスパニョーラ公式HP https://www.laliga.es/directo/temporada-2018-2019/laliga-santander/12/barcelona_betis (この写真はラ・リーガの許可をとって掲載しています)


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栗本悠人

栗本悠人

スペイン協会公認サッカー指導者ライセンスレベル3所持(日本のS級相当)スペインの現地クラブで小学生年代から高校生年代まで全カテゴリーの監督を歴任。大学時代は人間性の教育の研究に従事し、小学校教員免許を所持する。教育学、経営学、心理学をヒントに、サッカーの競争原理と育成の統合を目指している。スペクラ創設者&スーパーアドバイザー。 

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