スペイン代表最多得点MFカルロス・ソレールが語る「ゴールへの嗅覚」
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カタールW杯グループリーグ3戦目で日本代表と対戦するスペイン代表。EURO2020では準決勝まで勝ち進み、世代交代を進めるチームではあるが、今大会も優勝候補の一つであると言えるだろう。
そんなスペイン代表にも弱点がある。ゴールゲッター、得点力不足がその一つだろう。いつの時代も得点力が高いミッドフィルダーは重宝されてきたが、ゴールが課題であるチームにとってはなおさらである。
バレンシア所属のカルロス・ソレールは、その課題を解決できる注目選手の一人である。
公式戦わずか9試合で3ゴールを決め、2018年からルイス・エンリケ監督が代表の指揮を取ってから最も点を獲っているMF(ブスケッツは136試合2点、ロドリは33試合1点、ガビは9試合1点、マルコス・ジョレンテは16試合0点、コケは66試合0点、チアゴは46試合2点、ペドリは12試合0点、ミケル・メリーノは11試合0点)と、スペイン紙『マルカ』が取り上げている。
人生初のクラブ入団のきっかけは、祖父からもらったゲームボーイ
今でこそバレンシアでレギュラーを張り、スペイン代表の常連メンバーでもあるカルロス・ソレールだが、幼少期はクラブ活動を頑なに嫌っていた。知らない子供たちとサッカーをやるよりかは、近所の広場で祖母と一緒にパス交換やシュート練習、もしくは一人でボールを蹴っているほうが楽しかったそうだ。しかし、ソレールの才能を見極めていた祖父は、孫(当時5歳)にどうしてもクラブチームで実力を試すことを望んでいた。結果、ご褒美として当時子供たちに大人気だった任天堂のゲームボーイをプレゼントしてもらう代わりに承諾したと、本人が代表チームのインタビューで語っている。
ビジャに憧れ、バレンシア下部組織で845点以上記録
地元のタウンクラブで頭角を表していったカルロス・ソレールは、7歳でバレンシアにスカウトされた。当時トップチームとスペイン代表でもゴールを量産していたFWダビド・ビジャに憧れ、フォワードとして下部組織で845点以上という脅威の数字を記録した。そんな点取り屋が何故ミッドフィルダーへとコンバートされたのか。インファンティル(U14)時代に指導したニコ・エステベス監督は、スペイン紙『ラ・ラソン』のインタビューでこう語る。
「カルロス(・ソレール)はフォワードをやっていたが、選手としては他にも目ぼしい特徴を備えていたので、ライン間で数的有利を作れるためにゼロトップで使えると思った。それ以降はポジションをトップ下にずらし、フベニールB(U18)でルベン・モラ監督がインサイドハーフに起用した。これらの経験により中央から、そして、サイドからでも仕掛けられる選手に適応できたのだと思う」
ジェラード、ランパード、ダビド・シルバ、デ・ヨングをお手本に
生粋のストライカーだからこそ、持って生まれたゴールへの嗅覚がある。ソレールがスペイン紙『エル・パイス』のインタビューで語っている。
「前線でプレーした事のない選手は、クロスボールやクリアボールがどこに落ちるかなど、ゴールの嗅覚が足りない。ヘディングやシュートの質を上げることはできても、ゴールの嗅覚は異なる。僕は誰かに特別教えてもらったわけではないが、たくさんの試合を観戦していきた。プレミアリーグ、チャンピオンズリーグ、ラ・リーガ... 現代サッカーにおいては絶滅危惧種と言えるトップ下の役割を果たしていたジェラード、ランパード、ダビド・シルバといった選手たちを参考にした。今で言うとフレンキー・デ・ヨングもその一人」
2021/22シーズン、アウェイのレバンテ戦で決めたゴールは、ソレールのディフェンスの裏にできた一瞬のスペース認知と絶妙のタイミングでの裏へ飛び出し、ボールを呼び込んだ「らしい」ゴールだった(0:20)。
「タイミングを読む力はあると思う。味方のフォワードがセンターバックとサイドバックの間に落ちた瞬間、CBはFWを追いかけるとそこに大きなスペースが生まれる。(略)レバンテ戦の2点目がまさにそう。ゲデスが相手CBを引っ張り出し、僕がそのスペースを突いた」
「代表の練習で間近で見るまでは気がつかなかった」
カルロス・ソレールは2021年9月2日、カタールW杯予選スウェーデン戦でA代表デビューをゴールで飾った。3ヶ月前に開催されていたEURO2020に出場こそできなかったものの、新型コロナウィルスで急遽離脱者が出た際に備えたトレーニングメンバーとして招集されていた。そこでルイス・エンリケ監督は同選手の虜になったと、スペインサッカー連盟(RFEF)のインタビューで明かしている。
「バレンシアで見た限りは、スペイン代表U21でも経験がある良い選手だという印象にとどまっていた。しかし、EURO2020開幕前Bチームのトレーニングを間近で観察し、『凄い...』と、良い意味で驚いた。トップレベルのフィジカルコンディションはもちろん、我々がインテリオール(インサイドハーフ)に求める全ての特徴を備え、思いもよらなかったこともチームに与えてくれると気づかせてくれた」
所属クラブ(バレンシア)と代表(スペイン)の違い
2017年から20歳という若さでレギュラーに定着したカルロス・ソレール。前主将ダニ・パレホの退団をきっかけにFK・PKのキッカー担当にもなり、ここ2シーズンは72試合24ゴール14アシストという好成績を叩き出している。
にもかかわらず、代表戦明けにバレンシアの地元メディアは常にバレンシアのプレースタイルを疑問視し、代表と比べると選手本来の実力が発揮できていない、と批判を強まる。
しかし、本人曰く、バレンシアのプレースタイルが合わないと言うわけでもなさそうだ。同じく『エル・パイス』のインタビューでこう説明している。
「バレンシアで気持ち良くプレーができるのは空間に走り込む、もしくはカウンターの起点となる時。(ゴンサロ・)ゲデスや(ホセ・ルイス・)ガヤをスペースに走り込ませる、それも一種のオーガナイズされた攻撃となる。ピッチ上のチームメイト全員をまとめていたチャビ(・エルナンデス)のようなオーガナイズではないが、僕はDFとFWを繋ぐ架け橋、また味方のMFがボールを受けた時は、スペースに走り込むこともできるタイプの選手だと自覚している」
スペイン代表で共存するぺドリにゴールを求めるのは酷?
2021年、クラブと代表を合わせて年間73試合に出場したペドリ。イニエスタの継承者としても賞賛を集め、まさにバルセロナの次世代を担うスペインサッカーの至宝と言っても過言ではない。
しかし、そんなペドリにも「得点力が低い」という批判も少なくない。実際、フル出場を果たしたEURO2020、東京五輪では12試合ノーゴール。2020/21シーズン、バルセロナでは合計52試合に出場し、わずか4ゴール。攻撃頻度が高いバルセロナの選手、そして19歳といえどチームのエースたるものもっと求められても不思議ではないかもしれないが、ペドリの特徴についてカルロス・ソレールはこう語っている。
「ペドリはクラック(素晴らしい選手)。僕たちはピッチ上でこそ似たようなポジションでプレーしているが、特徴はあまり似ていない。ペドリが背を向いてボールを受ける時、多数の相手選手に囲まれながらも、抜け出す道が必ず見えている。それは非常に難しい技術だが、彼はベース(基本)が備わっている。彼はもっとポゼッションやアシスト、ウィングに展開するなど、がむしゃらにゴールを攻める選手ではない」
2021年のオーバーワークが災いをもたらし、怪我に悩まされた2021/22シーズン、ペドリは21試合しか出場できなかった。しかし、前シーズンと比べ半分以下の出場数にもかかわらず、ゴール数は同じ4点を記録した。
「ある日ペドリが、『ゴールを決めるには、ゴールを絶対に決めるという確信を持っていないといけない』と言っていたが、それは一理あるね。ゴールエリアに侵入しようと思うだけではなく、ゴールを奪えると信じてゴールエリアに近づく、これが秘訣」
最後に
ゴールゲッターという “特殊” 能力を身に着けた選手の出現までに時間が掛かるのであれば、居る選手の特徴を組み合わせ、得点に繋げるデザインをする。ゴールゲッターだった育成時代を経て、MFで様々なタスクやポジションをこなしながら経験を積み、フィニッシュにも貢献できるカルロス・ソレールの存在。そして、ぺドリをはじめ次世代の若手MFが台頭するスペイン代表。豊富なMF陣がゴールでも力を発揮する姿が次のW杯では見れるかもしれない。